風が、強い。
こういう日は、俺は好きでもなければ嫌いでもなかった。
日差しの持つ暖かな……むしろ暑いくらいの暖気を、風は微かに和らげてくれる。それを感じるのが俺は好きだ。
しかし、荒れている日には、俺の『中』までもが何故か荒れてしまう。能天気とか言われている俺でも、普段考えないような、わけのわからない事を考えてしまうから。
大学の側にある公園、今は桜が満開だ。
俺は桜の側に寄り、しばらく桜を見上げていた。
枝が風に揺れ、多くの花びらが吹雪のように舞い散っていく。風で散ってしまう事を惜しむ人もいるだろうが、俺は風情があっていいものだと思っている。
桜は好きだ。深い理由はない。敢えて言うなら、この薄くはかない雰囲気を持つ、花びらだろうか。花びらが好きだという深い理由もないが。
「わぷっ」
突然の強風。多くの花びらが一斉に散り、俺に叩き付けられる。俺は反射的に目をつむって前髪を押さえた。
「……っつー……きついなーったく……」
愚痴をこぼしながらふと横を向き……呆然とした。
遠方の桜の木の下。桜吹雪の中に、おぼろげながら人の影が見えた。
腰ぐらいまであるロングヘア、足を全て覆うほど長いスカートが風に揺れている。桜を見上げ、うっすらと見える表情は、はかなげな笑みを浮かべているようだった。
俺はしばらくその子に見惚れてしまっていた。
ふと、彼女の顔が、こちらを向く。
心拍が、一瞬どくんっと強く波打った。
彼女もしばらく俺の方を見つめ、やがて、その表情が微かに動いた−−と思った瞬間、再び突風が巻き起こり、桜吹雪で視界がふさがれた。止んだ時には、その子の姿はもう無かった。
夢の中にいるような心地だった。
俺はしばらくその感覚から抜けきれず、ぼうっとしていた。
脈が速い。頬が熱い。
何だ……? この感覚……
微かに吹く風が、上気した頬に気持ちよかった。
第二話へ続く